うつ病の脳


ここで紹介する内容は全て下記より抜粋しています。

 ビジュアル版『新・脳と心の地形図』

思考・感情・意識の深淵に向かって

リタ・カーター/著、藤井留美/訳

養老孟司/監修原書房

 



うつ病の脳
うつ病の脳

うつ病になると活動異常をきたす場所があり、それが否定的な感情の悪循環を形成している。

 

(A)帯状回の前部。悲しい感情に注意を固定する。

(B)前頭前野の外側部。悲しい記憶を意識にとどめる。

(C)視床中部。扁桃体を刺激する。

(D)扁桃体。否定的な感情をつくりだす。

 


 

うつ病はたんなる気分の問題ではない。疲労感、苦痛、不眠、食欲不振といった身体症状があるし、記憶も阻害され、思考が鈍くなる。不安、せっつかれるような恐怖感、動揺も起こり、患者は罪悪感にさいなまれ、自分は価値がなく、誰にも愛されないし、愛することもできないと悩む。


人生に張り合いが持てず、ものごとから「意味」が失われる。お気に入りだった音楽や絵に触れても、美しさや喜びは迫ってこず、見聞きしたことのある音符やパターンの羅列にしか感じられない。ひどくなると自分が死人のように思えてくる。


うつ病は単一の障害ではなく、いくつかの症状が同居した状態であり、それぞれ異なる脳の異常が原因となっている。ただ全容はまだ解明されておらず、脳スキャンを用いた研究でも、気分障害のメカニズムを正確に見きわめるのは難しい。


うつ病患者の脳は、健康な脳にくらべると活動が鈍い。そのためすばやい動きができず、無気力になり、気分が高揚することもなくなる。うつ病は不安状態と混同されやすく、両者が併発することも多いが、不安は(少なくとも脳の一部の領域で)神経活動が逆に活発になって起こる。


さらに前帯状皮質と呼ばれる領域でも奇妙な活動が起こる。それは脳の後ろから前に走る大脳溝の内側基底部で、ちょうど脳の正面にあたるところである。脳の外側よりも進化的には古いところで、下に位置する大脳辺縁系と蜜に神経の束で接続している。


無意識の脳から上がってくる、あるいは思考を処理する皮質領域からおりてくるいくつもの情報経路は、ここに到達する。
下からは衝動、欲望、言葉にならない記憶が、また上からは計画、アイディア、空想など、大量の情報がここを通過するようになっている。


前帯状皮質は身勝手な行動を引きおこすだけでなく、そうした行動に付きものの「やらされている」感覚の源でもある。
また「生きている」という本質的な実感を生み出すところでもあるので、この部分の働きが停止すると、コタール幻想が起こる。


前帯状皮質の最前部、前頭皮質の下にたくしこまれた部分は、うつ病になると活動が停滞するとされていた。しかしその後の研究で、この部分(および隣接していて実質的に区別がつかない部分)は反対に活動過多になっているという結果が出た。ここに電極を差し込んで弱い電流を流すと、うつ病の症状がやわらいだという。

 

明らかに矛盾する研究結果だが、おそらくこの部分は、楽観的な人が好ましい出来事を経験したときには極度に活発になり、楽しい感情を生み出しているのだろう。しかしうつ病患者になると、うしろ良くない出来事のほうに敏感に反応し、負の感情を増幅されせるのではないか。


うつ病患者の脳では、頭頂葉や側頭葉上部も機能が落ちる。それらは注意、とくに外界で起きていることに向ける注意に関係している。そのためうつ病の脳は内向きで、周囲に起こっていることよりも、自分の思考にばかりとらわれる。うつ病患者は外界の刺激に反応が鈍く、「自分の問題でがんじがらめになっている」と言われるが、それはこのことと関係しているだろう。


反対にこれらの場所が活発すぎると躁病になり、過度に興奮したり、浮ついた自信や多幸感が出てくる―うつ病の正反対である。躁病の典型的な特徴のひとつに、有意義感の増大がある。どんなささいなことにも重要に思えて、すべての出来事が謎めいたおおきなひとつの枠組みでまとまっていると感じる。


相互接続の感覚や有意義感は、パラノイアにも見られ、たしかに躁病からパラノイアになることもある。統合失調症の一症状であるパラノイアは、前頭葉前部の活動を促進する神経伝達物質、ドーパミンの変動に関係がある。このように、うつ病患者の前頭葉前部に異常があることは、ほかの精神疾患の特徴とも符号しているのである。

 


ここで紹介する内容は、下記より抜粋しています。

 

【参考】

ビジュアル版『新・脳と心の地形図』

思考・感情・意識の深淵に向かって

リタ・カーター/著、藤井留美/訳

養老孟司/監修原書房

 

 

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