理性と直観〜知識と適応学習

更新日:2022/06/13 公開日:2022/02/02

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理性と直観〜知識と適応学習【自己変容の道3】
理性と直観〜知識と適応学習【自己変容の道3】

理性と直観〜知識と適応学習

 

人類は、共感・自制心・道徳的感情・理性によって暴力を減らし、自制心・創造力・共感力によって自由意志を手に入れたそうです。これからの多様化する社会で、個性が異なる多くの人間が協力しあうには、理性と直観を鍛えること、適応学習による小さな改善・ビジョン・進化する知識が役立つと説明されています。多くの人間が協力しあう平和な社会になりますように。

2022年2月2日 inner-wish

 

理性と直観〜知識と適応学習について『決断科学のすすめ』矢原徹一氏 (著)より紹介しています。

 


目次


以下の紹介内容は、すべて下記より抜粋・引用しています。

決断科学のすすめ—持続可能な未来に向けて、どうすれば社会を変えられるか? 

【参考】

決断科学のすすめ—持続可能な未来に向けて、どうすれば社会を変えられるか? 

著者:矢原 徹一

出版社 ‏ : ‎ 文一総合出版 (2017/3/3)

 

画像は編集して作成しました。

小見出しは掲載されている見出しと、内容から作成した見出しを使用しました。

文章はすべて本文の一部を要約・抜粋・引用しています。掲載順は一部入れ替えています。


1.人類はどうやって暴力を減らしてきたのか

 

2011年に出版された『暴力の人類史』の原題は、”The better angels of our nature -why violence has declined”(われわれの本性はよりよい天使ーなぜ暴力は減ってきたか)である。邦題を見ると人間による暴力の歴史をつづった憂鬱な本だと誤解されそうだが、実際には人類史を通じて暴力が一貫して減少してきたことを立証した本である。「人類の未来に向けた希望の書」という帯のほうが、本書の内容をよく表している。

 

かつて略奪、決闘、殺害は当たり前だった

 

著者はまず、狩猟採集生活時代の残虐性を暴き出す。国家が成立する前の部族社会では、土地・資源・女性をめぐる部族同士の略奪や戦争が頻繁に起きていた。

 

その結果、10万人あたり平均500人が毎年殺されていた。農業が開始され、国家が成立した後の社会では、このような略奪や戦争が減り、死者数も10万人あたり平均100人を下回るようになった。さらに、中世の小規模国家が統合されて中央集権国家が成立し、警察機構によって治安が向上すると、殺人が減った。

 

英国では、最初の統計資料が得られる1300年代には、10万人あたり数十人が毎年殺されていたが、産業革命が起きた1800年代には数人のレベルに減少した。

 

残虐性、暴力性を抑えてきた「天使」とは

 

さて、人間が生まれながらにして残虐性、暴力性を持っているとすれば、どうして人類史を通じて暴力は減り続けてきたのだろうか。それは、私たちの中にある非暴力的性質(天使)が社会において表現される機会が増えてきたからだと著者は主張する。

 

その「天使」とは、共感(エンパシー)、自制心、道徳的感情、理性の四人である。これらの人間的性質は、おそらくチンパンジーにもその原型が見られるが、人間への進化の過程で「よりよい天使」へと強化された。

 

なお、心理学においては、同情(シンパシー)と共感(エンパシー)は異なる心理能力だと考えられている。共感とは、単に同情する(他人の痛みを感じる)だけでなく、相手の視点に立って考え、関心を共有できる能力のことである。共感はもともと、家族や友人に対する協力行動を支える心的能力として進化したものと考えられる。

 

理性によって直観を鍛える

 

 

『暴力の人類史』は一流の心理学者であるピンカーが、人間の善性・悪性についての科学的研究の成果にもとづいてまとめた本だ。ピンカーが四人の天使と呼ぶもののうち、理性は間違いなく人間性のライト・サイドだ、理性は脳がコストをかけて冷静な判断をする仕組みであり、システム2とも呼ばれる。

 

一方、共感と道徳は、時として対立の火種になる。社会的リーダーは、共感と道徳をダーク・サイドに落とさないよう、上手に使いこなす必要がある。ダーク・サイドへの歯止めとなるのが理性であり、理性的判断に従うよう行動をコントロールするのが自制心だ。

 

しかし、理性の力はしばしばもろく、共感や道徳にもとづく直観に負けてしまうことがある。直観による失敗を避けるには、日頃から理性によって直観を鍛える訓練が重要だ。

 


2.人類はどうやって自由を手に入れたのか

自由こそ未知の可能性を開く鍵

 

新しい価値を創造する人材を育てる鍵は、「自由」にある。教えて伝えられる知識は限られている。一方で、自由に学ぶ力があれば、全人類が蓄積した知恵と、学生自身の経験から、はるかに豊かな知識を得ることができる。もちろん、自由には責任が伴うが、その責任も含めて、自由な意志力を高めたいものだ。

 

自由な意志力を支える「自制心」

 

クリストファー・ボーム著『モラルの起源』には、このような狩猟採集社会とチンパンジーの社会との比較研究の成果が紹介されている。彼らの社会には道徳(内在化されたルール)があり、自制心(ルールを守るように自制する性質)が低い者は、生存や繁殖において不利である。このため、自制心を強める進化が起きたと考えられる。生物学的には、このようにして進化した自制心が、自由意志の一つの基盤だと考えられる。なぜなら、内面化されたルールに従って自分の行動を制御できる能力がなければ、意志を持った行動はできないからだ。

 

自由な意志を支える「創造力」

 

ヒトの高度な知性を発達させたのは言語の使用だろうと、多くの研究者が考えている。言語を使うことで、コミュニケーションを含む情報処理能力をヒトは格段に高めることができた。そして、経験を一般化・概念化し、予測力・想像力を働かせることによって、自然界に存在しない絵画や道具を創造する能力を身につけた。このような創造力が、自由な意志のもう一つの基盤だ。なぜなら、創造力がなければ、意志によって実現を目指す目標や夢を描くことができないからだ。

 

自由な意志を支える「共感力」

 

自由な意志には、もう一つの基盤がある。それは他者との共感力だ。社会における自由とは、自分だけが自由にふるまうことではない。自分の行為によって他者の自由が侵されれば、他者からの反感や反撃を招く。また、社会に生きる私たちにとって、自分の目標達成のためには他者の協力が不可欠だ。この二つの理由から、他者の立場にたって考えることができる能力、すなわち共感力がなければ、自由な意志を持つことは不可能だ。

 


3.理性と直観の両方を鍛える

理性・経験によって直観を鍛える

 

多くの決断は、翌日まで待てることが多い。私は大きな決断を迫られたとき、まずその場で暫定的な決断を下すが、最終的な決断は翌日まで待つという方法をとる。その間に、自分の決断についてよく考え、可能なら信頼のおける(批判力のある)他者の意見を聞く。このような判断において、それまでに得た知識と経験が役立つことは言うまでもない。一人が経験できることは限られているが、幸い人間は本を通じて他者の経験を学び、体系化された知識を学ぶことができる。

 

だが一方で、その場で直観的に判断しなければならないこともある。危機的事態においては、事態を事前に想定して心と体の準備をしておくことが決定的に重要だ。決断力を支えるのは、理性による事前の準備と、理性・経験によって鍛えられた直観である。鍛えられていない直観に頼っていては、多くの場合に失敗する。決断力を高めるには、理性と直観の両方をきちんと鍛えることが重要であり、この訓練を支えるのは、好奇心と自制心だ。

 

よく訓練を積んだ人の直観

 

直観的判断と理性的判断の癖を知るには、カーネマン著『ファスト&スロー』が必読文献だ。カーネマンも述べているように、よく訓練を積んだ人の直観がすぐれているのは、経験的に学習できる場合である。投資のように確率性が高く、経験的学習がむずかしい場合には、経験を積んだ人の直観がすぐれているとは限らない。消防士やパイロットなどのように、技能訓練をよく積んだ人は、経験したことがない事態においても、「見えない問題」を見抜いてすぐれた決断を下せることがしばしばある。「第六感」とも言えるこの着想過程についての研究が、ゲイリー・クライン著『「洞察力」があらゆる問題を解決する』で紹介されている。

 


4.適応学習と知識による改善

適応学習による小さな改善

 

「いかに立派なリーダーであれ、完璧な計画をひとりでつくることはできない。人々の意見を取り入れることが、しばしば計画を改善するうえで役に立つのである。ゆっくりと、しかし着実に進んでいけば、一つひとつの段階において物事がうまくいっているかどうかを確認できる。

 

またどんな計画にも、何らかの弊害がひそんでいるものながら、これとて表面化した段階できっちり対処できる。(『新訳フランス革命の省察「保守主義の父」かく語りき』)要するにバーグは、適応学習によって経験に学び、小さな改善を積み重ねることによってこそ、社会をうまく変えることができると主張している。そして、そこで必要なのが「熟考」だと強調している。

 

「保守主義の父」と呼ばれるバーグの主張は、生物進化を学んだものとして、とても納得がいく。多くの生物は環境によく適応しているので、その状態を大きく変える突然変異は、ほぼ例外なく生存力や繁殖力を下げてしまう。驚くべき適応の数々を生み出した生物進化は、微小な効果しか持たない突然変異を素材にして、生物の性質の小さな改善を積み重ねることによって成し遂げられた。この原理は社会の進歩にも当てはまるだろう。

 

理性や直観は知識に支えられている

 

私たちの理性は知識によって支えられている。理性には様々な不完全さがあるが、知識にはそれを補う力がある。20世紀後半における心理学の発展は、理性(システム2)の不完全さを次々に明らかにした。この点を考慮してジョナサン・ハイトは、「象使い」(理性)ではなく「象」(直観)に語りかけることが重要だと強調した。一方、哲学者のジョセフ・ヒースは時間をかけて理性的判断を行うことを重視し、「スロー・ポリスティクス」を提唱した。心理学者のスティーブン・ピンカーは、歴史を通じて暴力の減少に寄与した要因を調べ、理性こそが社会をより平和にする原動力だと主張した。

 

生態学・進化学を専門とする私から見ると、これらの議論は実は重要な事実に注目していない。それは私たち(象と象使い)が知識の中で生きており、そして知識は遺伝子と同様に次世代に伝達され、変化するということだ。私たちの理性や直観は遺伝子進化(ヒトの遺伝的性質の変化)だけでなく、言語による知識の進化(非遺伝的な知識の蓄積)によって発達したのである。言語には、「象使い」(理性)ではなく「象」(直観)に語りかける力もある。私たちは知識を学ぶことによって理性的な判断能力を高めると同時に、知識にもとづくビジョンを直観に訴えて人の心を動かし、協力性・献身性を引き出すことができる。

 

適応学習・ビジョン・知識

 

「社会をどうすれば変えられるか?」この問いへの私の答えは、適応学習による小さな改善の積み重ねだ。ただし、目先の利益にとらわれずに、長い目で見て望ましい決断を下すには、リーダーのビジョンが果たす役割が大きい。個性が異なる多くの人間が協力しあうには、互いの共通点を見つけることが重要だ。

 

スティーブン・ピンカーが強調するように、私たちの社会はより平和で協力的な方向へと変化してきた。このような変化を支えた大きな力は理性であり、そして理性によって学ぶことができる知識だ。本書で採用したアプローチは、進化の原理を、知識の創造に応用することだ。一見関係のない知識を関係づけることは、発想法の基本である。そして、関係づけられた知識の体系は、多くの人によってさらに改良がくわえられ、豊かになっていく。このようにして知識は「進化」する。

 

私たちの社会は、人類6万年の歴史の中で最も平和で、最も豊かで、最も創造的な時代にある。そして、大きな転換期を迎えている。今後の社会では、多くの市民によるボトムアップ型の改革が進み、それらが組み合わされることによって、オープンイノベーションが進むだろう。これは「適応学習」のプロセスだ。このような転換期に生きる多くの人にとって、本書が有意義なガイドブックとなることを願っている。

 


以上の紹介内容は、すべて下記より抜粋・引用しています。

決断科学のすすめ—持続可能な未来に向けて、どうすれば社会を変えられるか? 

【参考】

決断科学のすすめ—持続可能な未来に向けて、どうすれば社会を変えられるか? 

著者:矢原 徹一

出版社 ‏ : ‎ 文一総合出版 (2017/3/3)

 

画像は編集して作成しました。

小見出しは掲載されている見出しと、内容から作成した見出しを使用しました。

文章はすべて本文の一部を要約・抜粋・引用しています。掲載順は一部入れ替えています。


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