銀の滴降る降るまわりに

更新日:2022/09/05 公開日:2022/09/02

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銀の滴降る降るまわりに【心の声】
銀の滴降る降るまわりに【心の声】

銀の滴降る降るまわりに

 

『銀の滴降る降るまわりに』というアイヌの有名な神謡について、知里幸恵 『アイヌ神謡集』 2022年9月 (NHKテキスト) を引用しつつ紹介します。

目次


アイヌの精神性との出会い

 

「今日は本屋さんに行かねば」という気持ちになる時は、いつも今読む必要のある本に巡り会えます。そんな本屋で輝いて見えたのが『アイヌ神謡集』の文字でした。

 

先日、アイヌの精神を日常生活の中で生きている方と知り合ったばかり。とても深く心を打たれ、もっと知りたいと願っていた時だったからでしょう。

 

でもそれだけが理由ではありませんでした。

 

アイヌ神謡集』は1923年に出版されたアイヌの物語集です。2022年の今年は、著者の没後100年に当たるそうです。その企画でテキスト『知里幸恵 『アイヌ神謡集』 2022年9月 (NHKテキスト) 』が出版されたのだろうと思います。

 

アイヌ神謡集』はアイヌの手によって書かれた初めてのアイヌ語の本であるばかりでなく、今日まで最も多くの人に読まれてきたアイヌ文学書でもあります。著者の知里幸恵(ちりゆきえ)というアイヌ女性は、19歳でこの本を書き終えた直後に亡くなったそうです。もともと心臓が弱かったとのこと。

 

ちなみに、本テキストの著者である中川裕氏は、1976年から北海道でアイヌ文学の記録を行なってきた方です。その著者がアイヌ語を研究する理由として「これが一番真実に近い」と思っている話が心に響きました。

 

おばあさんから「お前が私のところに来るのは、お前が来たくて来るんじゃない。お前の憑き神がアイヌ語を覚えたくて、お前をここに来させるんだ。だから、私はお前でなくお前の憑き神にアイヌ語を教えているんだ」と聞いた話です。

 

知りたい願いと、知らせたい願いが一致して出会うことができるのでしょう。そして今は私も知らせたいと感じています。

 


銀の滴降る降るまわりに

 

「銀の滴降る降るまわりに」とは『アイヌ神謡集』を代表する有名な神謡です。これは、フクロウの神が自ら歌った謡だそうです。私は初めて知ったのですが、「銀の滴降る降るまわりにという美しいフレーズは、多くの人が知るところでしょう」と書かれています。

 

また「銀の滴」という言葉自体がアイヌ文化を象徴する言葉として、いろいろなところに使われ、著者の功績を記念する施設も「知里幸恵 銀のしずく記念館」という名前だそうです。

 

私は「銀の滴降る降るまわりに、金の滴降る降るまわりに」というフレーズの美しさに心を打たれ、この物語に浸透しているアイヌの精神性に深く敬意を感じました。

 

「誇り高く、生きる。」「人間意外の視点から世界のあり方を伝える物語。」「カムイ(環境)と支え合って生きる豊かな精神文化、美しくも謎めいた文学表現を味わうための最良のガイド」と表紙に書かれたテキストを引用しながら紹介したいと思います。(引用・紹介はごく一部です)


知里幸恵 『アイヌ神謡集』 2022年9月 (NHKテキスト)
知里幸恵 『アイヌ神謡集』 2022年9月 (NHKテキスト)

以下の内容は全て下記より引用しています。

知里幸恵 『アイヌ神謡集』 2022年9月 (NHKテキスト) 

【参考】

知里幸恵 『アイヌ神謡集』 2022年9月 (NHKテキスト) 

著者: 中川 裕

出版社: (著)出版社 ‏ : ‎ NHK出版

発売日 ‏ : ‎ 2022/8/25

 

*画像は無料素材を編集して作成。

*小見出しは本文内容から作成。

*文章はすべて本文の一部を要約・抜粋・引用。



銀の滴降る降るまわりに

 

「私」(叙述者)の視点で語られるというアイヌ文学の形式どおり、ここではカムイであるシマフクロウの視点で物語が語られています。シマフクロウが人間の村の上を飛んでいると、海辺にいた子どもたちがシマフクロウを見つけ、小弓で射ようとする。

銀の滴降る降るまわりに 抜粋

「銀の滴降る降るまわりに、

金の滴降る降るまわりに。」

という歌を私は歌いながら

流に沿って下り、人間の村の上を

通りながら下を眺めると

 

小さい矢は美しく飛んで

私の方へ来ました。それで私は

手を差しのべてその小さい矢を取りました。

 

クルクルまわりながら私は

風をきって舞い下りました。

 

私は私の体と耳の間に座って

いましたがやがて、ちょうど、

真夜中時分に起き上がりました。

 

「銀の滴降る降るまわりに、

金の滴降る降るまわりに。」

という歌を静かにうたいながら

この家の左の座へ右の座へ

美しい音をたてて飛びました。

 



銀の滴降る降るまわりに 解説

 

ここで言う「手」というのは魂の手です。アイヌの考えではカムイの魂は人間と同じ形をしています。その魂が手を伸ばして矢を取ったということで、肉体においては心臓に矢が当たったことを表しているのです。

 

アイヌの考えでは魂は不滅であり、死というのは肉体から魂が抜けた状態に過ぎません。そして肉体というのは、カムイの着物であり、人間世界に持ってきた贈り物でもあります。

 

シマフクロウのほうから彼の家に客となって訪れることを望んだのです。

 

アイヌは、狩りというものをそのようにとらえていました。狩りがうまいか下手かというのは、技術の良し悪しではなく、その人間の精神の問題なのです。カムイは精神の良い人間のところに獲物となって訪れ、精神の悪い人間のところには、姿も現さないと考えていました。

 

「耳と耳の間に座って」いるのは魂です。「私の体」の耳と耳の間に座っているということは、その魂が肉体から出て、自分の頭の上に座っているということ、つまり死んでいることを表しています。

 

フクロウの魂が家の中で羽ばたくと、「私のまわりに/美しい宝物、神の宝物が美しい音をたてて/落ち散りました」。家の中は宝物でいっぱいになり、小さかった家も大きく立派な家になります。

 

シマフクロウは家の人たちの夢に現れ、あなたたちが貧乏人だとばかにされていることを不憫に思ったので、これらの宝物を恵んだのだと知らせます。翌朝、起きてきた家の人たちは腰を抜かし、老人は泣いてシマフクロウにお礼を言いました。

 


アイヌ文化の現在

 

2019年にはアイヌ新法が成立しました。これは正式名称を「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律」と言い、アイヌを先住民族としてはっきり位置付けたという点が重要でした。

 

そして2020年、アイヌの歴史や文化をテーマとした、国立アイヌ民族博物館およびウポポイ(民族共生象徴空間)が白老にオープンしました。

 

このような流れの中で、若いアイヌの人たちを中心に、自分たちの文化や伝統をアピールする活動が目立つようになりました。

 

このような動きは、私が研究を始めた40年ほど前には、まったく考えられなかったことです。こうした状況こそ、知里幸恵が『アイヌ神謡集』の「序」にこめて願ったことではないでしょうか。

 

和人と同化するのではなく、「私はアイヌだ」と堂々胸を張って、現代社会の中で活動する強い人たちがでてくること。知里幸恵の没後100年を経た今、彼女が明暮願っていたことが、今まさに実現しつつあるのだろうと思います。

 


テキスト著者について

中川 裕(なかがわ・ひろし)

言語学者、千葉大学名誉教授。

1955年、神奈川県生まれ。専門はアイヌ語学、アイヌ口承文芸学。東京大学文学部卒業後、同大学院人文科学研究科博士課程中退。千葉大学文学部で教鞭をとり2021年に退任。1995年、アイヌ語・アイヌ文化の研究により金田一京助博士記念賞を受賞。2014年に連載が開始した野田サトル作の漫画『ゴールデンカムイ』でアイヌ語監修を務める。主な著書に『アイヌ語をフィールドワークする』(大修館書店)、『アイヌ語千歳方言辞典』(草風館)、『改訂版 アイヌの物語世界』(平凡社ライブラリー)、『アイヌ文化で読み解く「ゴールデンカムイ」』(集英社新書)など。


知里幸恵 『アイヌ神謡集』 2022年9月 (NHKテキスト)
知里幸恵 『アイヌ神謡集』 2022年9月 (NHKテキスト)

以上の内容は全て下記より引用しています。

知里幸恵 『アイヌ神謡集』 2022年9月 (NHKテキスト) 

【参考】

知里幸恵 『アイヌ神謡集』 2022年9月 (NHKテキスト) 

著者: 中川 裕

出版社: (著)出版社 ‏ : ‎ NHK出版

発売日 ‏ : ‎ 2022/8/25

 

*画像は無料素材を編集して作成。

*小見出しは本文の内容から作成。

*文章はすべて本文の一部を要約・抜粋・引用。



アイヌ神謡集・おもろそうし

 

「アイヌ神謡集・おもろそうし」の動画・説明がNHK for Schoolで紹介されています。

小学生向けのようですが、『銀の滴降る降るまわりに』のあらすじや、『アイヌ神謡集』の説明も含まれています。また、アイヌ語(木原仁美さん)、日本語(石田ひかりさん)の朗読と、可愛いアニメーションで世界観が表現されています。

 


NHK Eテレ放送日

100分de名著 2022年9月Eテレ

放送回 日時 放送内容
第1回 9/5(月) 午後10:25〜10:50 アイヌの世界観
第2回 9/12(月) 午後10:25〜10:50 「語られる物語」としての神話
第3回 9/19(月) 午後10:25〜10:50 銀の滴降る降るまわりに
第4回 9/26(月) 午後10:25〜10:50  知里幸恵の想い

再放送情報

放送回 再放送① 再放送②
第1回 9/6(火) 午前5:30〜5:55 9/12(月) 午後1:05〜1:30
第2回 9/13(火) 午前5:30〜5:55 9/19(月) 午後1:05〜1:30
第3回 9/20(火) 午前5:30〜5:55 9/26(月) 午後1:05〜1:30
第4回 9/27(火) 午前5:30〜5:55 10/3(月) 午後1:05〜1:30


アイヌ神謡集の紹介

アイヌ神謡集
アイヌ神謡集

以下は全て下記から紹介しています。

アイヌ神謡集 (岩波文庫)

【参考】

知里 幸恵  (編訳)

アイヌ神謡集 (岩波文庫)

出版社 ‏ : ‎ 岩波書店

発売日 ‏ : ‎ 1978/8/16

*小見出しは本文から作成しています。



序(最初と最後の部分)

その昔この広い北海道は、私たちの先祖の自由の天地でありました。天真爛漫な稚児の様に、美しい大自然に抱擁されてのんびり楽しく生活していた彼らは、真に自然の寵児、なんという幸福な人たちであったでしょう。

(中略)

私たちを知ってくださる多くの方に読んでいただく事ができますならば、私は、私たちの同族祖先と共にほんとうに無限の喜び、無上の幸福に存じます。

大正十一年三月一日 知里幸恵


アイヌ神謡集
アイヌ神謡集

以上は全て下記から紹介しています。

アイヌ神謡集 (岩波文庫)

【参考】

知里 幸恵  (編訳)

アイヌ神謡集 (岩波文庫)

出版社 ‏ : ‎ 岩波書店

発売日 ‏ : ‎ 1978/8/16

*小見出しは本文から作成しています。